【感想】『逆転交渉術 -まずは「ノー」を引き出せ-』にはライフハックがつまっている
こんにちは、もっさま(@mossamaguna)です。
昨年購入し、折に触れては読み返している本があります。それは『逆転交渉術 -まずは「ノー」を引き出せ-』という本です。
「交渉」という言葉を聞くと、「取引先との価格交渉で〜」とか「難しい交渉だが〜」など、仕事の場面を連想すると思います。私自身も、仕事上のスキルとして身に付けるべく、手に取ったことを覚えています。
ところが、交渉はビジネスパーソンに限らず、あらゆる人にとって有益なスキルであると著者のクリス・ヴォスは主張しています。
職場や家庭でのやりとりの多くは交渉だ。要は単純な動物的衝動を「してもらいたい」ということばで表現しているにすぎない。
これから学ぶ交渉とは、結果をともなうコミュニケーションのことだ。人生のなかでほしいものを手にいれるということは、他の人からーあるいは他の人とともにーほしいものを手にいれることだ。すべての関係において、二者の対立は避けられない。ならば、傷を残すことなくほしいものを手にいれるため、その対立にどう関わるべきかを知ることは、役に立つーというよりも不可欠と言っていい。
また、本書が他の交渉を題材にした本よりも優れている点は、著者が元FBIの人質交渉人である点です。
立て篭もり、誘拐、テロといった人の生死が左右される場面で、はたして交渉に失敗が許されるでしょうか?
本書では、人質交渉人としての24年のキャリアに加え、ビジネススクールや企業でコンサルティングを行ってきた10年の経験と実績が生み出した多数の交渉テクニックを、エピソードを交えて紹介されています。
今回は、その中でも明日からすぐ実践できるテクニックを5つご紹介したいと思います。
1)ミラーリング
まずはミラーリングと呼ばれるテクニックです。
これは、文字通り鏡のように相手がいったことをくり返すテクニックです。
人の発言をくり返すことにより、 模倣行動という本能が刺激され、相手は先に言ったことを詳しく言い直したり、関係を作る行為を続けざるを得ない。
想像してみてください。
ビジネスの場面で、たった今説明した◯◯という内容に対し、お客様から「◯◯、ですか?」と返される自分を。
まるで、自分の説明が不十分であったかのように感じられるのではないでしょうか。
ミラーリングが効くと相手に話を継続させる作用が働きます。これにより自分の時間を稼ぎ、次の一手を考えつつ、相手の手の内を更に明かさせることができます。
2)沈黙
ミラーリングとセットで使いたいのがこのテクニックです。
具体的には、ミラーリングを行ったのち、文字通り沈黙すること。それも4秒間。
心理学者でコミュニケーション理論家のポール・ワツラウィックの有名な言葉に
「One cannnot not communicate」
というものがあります。
これは「人間はコミュニケーションしないことはできない」という意味です。
例えば、係り合いたくないがために相手とコミュニケーションしない(=無視する)ことがあります。しかし、これはコミュニケーションを取りたくないというメッセージを発信していることと同じです。
場合によってはこのメッセージを誤解し、
「私に気があるから恥ずかしくて避けているんだな」
という意味を見出す人もいるかもしれません。
さて、ミラーリング+沈黙の文脈では、相手はこの4秒間の沈黙に何かしらの意味を見いださざるを得ない、ということになります。
これを「説明が不十分であった」あるいは「会話のボールは今こちらにある」と相手が解釈した場合、鏡の魔法が効いたことになります。
沈黙は時として永遠のように長く感じられることがあります。普段から4秒間堪える訓練を積みましょう。
間を埋めたくなる気持ちはよくわかります。しかし心配に及びません。
それは相手が埋めてくれます。
3)共感
3つ目のテクニックは共感です。
自分の考えに共感してくれる人が周りにいると心強いですよね。
では、具体的に「共感する」とはどのようなことを指すのでしょうか。
「◯◯さんの気持ち、よくわかるよ」
「◯◯さん、私も同じ意見だよ」
「わかりみが深い」
「左様」
否です。
共感とは相手の感情や感じていることを言語化(=ラベリング)することだと著者は指摘しています。これは相手の心の声を鏡で表現しているため、ミラーリングの高等テクニックと言えるでしょう。
ラベリングを英語では「It seems that 〜」と表現しています。
日本語に訳すと、「〜のようですね」という表現に相当します。
相手の気持ちがわかるなら、それを言葉にして表現できるはず。
抽象的な表現ではなく、相手の気持ちを具体的な言葉で表現しましょう。
4)要約
人と話をしていて「この人本当に私の話を聞いている?」と感じたことはありませんか。
例えばあなたが誰かと話をしていて、「うん」とか「そうだね」といった相槌ばかりを相手が繰り返している場面を想像してください。
話を続ける気がだんだんとなくなっていくとは思いませんか?
では立場を変えて、あなたが話を聞く場面ではどのように反応するのが効果的でしょうか。
そこで登場するテクニックが「要約」です。
「要約」とは「言い換え(=パラフレーズ)+ラベリング」と著者は説明しています。
パラフレーズは「相手の説明の中から重要な要素をピックアップして短くまとめる」こととは大きく異なります。これでは「要は◯◯でしょ」という、いかにも短絡的で相手に寄り添っていないコミュニケーションに陥る可能性があります。
言い換えというプロセスが重要で、自分の言葉で表現することで「私はあなたの話を聞き、理解し、咀嚼している」ことを強力にシグナリングできます。
手短に表現することは避け、自分の言葉に言い換えるよう心がけましょう。
5)非難の聴取
最後のご紹介する「非難の聴取」は、ここぞという場面で頼りになるテクニックです。
著者の言葉を引用すると次の通りです。
相手があなたに言うかもしれないひどいことを、ひとつ残らずリストアップすることである。
何か過ちを犯した時の対応に人間性がよく現れるものです。逃げたり隠そうとすればするほど、あなたの評価は地に落ちていきます。
そうであれば、相手から言われる前に自らの言葉に発し、その事実を理解し受け入れていることを表明するほうが、ずっといいに決まっています。
興味深いことに、「非難の聴取」の内容を相手が同じように考えていた場合、それは「共感」として作用して対立を防いでくれると著者は指摘しています。
逆に相手はそうとは考えていない場合、アンカリングとして作用し「そこまで酷いことないよ」と寛容に捉えてくれます(経験としてはこちらに作用することが多い)。
「非難の聴取」が済んだら、勇気を出してこう切り出しましょう。
「◯◯さん、聞いてください。私は本当にどうしようもないやつです、最低です。」
続いて「非難の聴取」で挙げた内容を2、3ラベリングする。
相手から説明を促された後、本題に入り、自分の過ちを誠意を持って伝えましょう。
私これを「劇場型謝罪」と呼び、やらかしてしまった時に使います。
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全てのテクニックに共通して重要なことですが、表情、声のトーン、話すスピード、ボディランゲージには十分注意しましょう。
原則として、にこやかな表情を浮かべ、声は穏やかに、ゆっくりと話し、手・腕・脚はリラックスさせましょう。
特に相手が怒りの熱を帯びている時に、無表情、毅然とした声、早口、腕や脚を組むと非難がましい印象を与え、火に油をそそぐような結果になりかねません。
人は論理で理解し、感情で納得するものです。
今回ご紹介したテクニックを通じて、理論武装するだけでなく、相手の感情へ効果的に訴えかけられるようになれば、人生がまたひとつ豊かになるかもしれません。
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